締結した契約書に誤記などの間違いがある場合、内容を訂正する必要があります。ここでは、契約書の訂正方法の種類や注意点、電子契約の訂正方法などについて解説しています。
契約書の訂正は、すべての当事者の合意のうえで行う必要があります。一部の当事者がほかの当事者の合意を得ずに契約書を訂正したとしても、原則として法的効力は生じません。また、私文書を変造したとして刑事罰を科される恐れがあるため、契約書の訂正は必ず当事者の合意のうえで行うようにしましょう。
契約書の訂正方法については、法律の条文で明確に定められていません。ただ、商習慣上により契約書の訂正方法がほぼ確立されています。契約書の訂正方法としては、「訂正印と二重線による訂正」と「捨印による訂正」が一般的です。
契約書の訂正に使用する訂正印には、契約書の締結時と同じ印鑑を用います。契約書の締結に使用した印鑑を訂正にも用いるべき理由は、権限のある者が訂正を行った証明になるからです。押印を省略してサインのみで契約書を締結した場合については、締結者のサインによって訂正を行います。
契約書を訂正する際は、すべての当事者が訂正印を押す必要があります。そうすることで、契約書の訂正が当事者の合意に基づいて行われた証明になるからです。訂正印を押していない当事者がいる場合、訂正の有効性についてトラブルに発展する恐れがあるため、当事者全員の訂正印を押すようにしましょう。
訂正箇所の近くに記載する削除(抹消)・追加(加入)の文字数については、文字の種別(ひらがな・カタカナ・漢字・英数字・記号など)を問わずに1文字ずつで数えます。半角・全角でも数え方は変わりません。また、読点や括弧についてもカウントの対象となり、1文字ずつで数えます。
捨印は契約書の余白部分にあらかじめ押しておき、訂正が必要になった場合に訂正印の代わりとする押印方法です。
捨印は冒頭(タイトル部分)の上部余白に押すのが一般的で、複数の枚数からなる契約書の場合は、すべてのページの同じ箇所に捨印を押します。捨印を押した契約書を訂正する際は、捨印の近くに「〇字削除、〇字追加」など訂正内容を記載します。
捨印は原本を所有する当事者に訂正の権限を一任することになるため、重要な条項が書き換えられる可能性も否めません。そのため、捨印を求められたとしても安易に押さず、慎重に検討する必要があります。
一部変更契約とは、契約書全体の効力を原則として維持しながら、一部の内容を変更する契約のことです。契約の実質的な内容に及ぶ訂正が必要で、なおかつ訂正の分量がそれほど多くない場合は、一部変更契約で訂正するという方法もあります。一部変更契約を締結する際も、すべての当事者の署名・押印等が必要です。
一部変更契約で契約書を訂正する場合は、「一部変更契約」などの見出しを付け、訂正内容を記載した契約書を作成・締結します。訂正内容のほかに、訂正の効力についても以下のようなことを明記しておきましょう。
訂正が契約の実質的な内容に及び、なおかつ訂正の分量が比較的多い場合は、全面変更契約を締結して訂正するという方法もあります。訂正の分量がそれほど多くなかったとしても、訂正を含む契約内容の全体を一覧的に把握できるように、全面変更契約をあえて締結するケースもあるようです。
全面変更契約を締結する際も、一部変更契約と同様に当事者全員の署名・押印が必要になります。
全面変更契約は訂正を含めた契約内容の全体を把握しやすい一方で、どこが変更されたのかが分かりにくいというデメリットも。全面変更契約の草案を当事者間でやり取りする際は、変更履歴を添付するなど、訂正箇所を明示するようにしましょう。また、契約書の草案が送られてきた場合は、訂正前の文書と比較し、不適切な変更がないか確認することも重要です。
契約書を電子契約で締結した場合、訂正印や捨印での訂正はできません。原本ファイルを印刷して訂正印などで訂正を行ったとしても、訂正の効力に疑義が生じる可能性があります。電子契約を訂正する場合は、一部変更契約または全面変更契約による訂正を行いましょう。変更契約を締結する際は、原契約と同じく電子契約で締結すると管理しやすくなります。
契約書を訂正する際は、「契約内容が改ざんされていないか」「収入印紙の貼付が必要かどうか」の2点に注意する必要があります。
契約書の訂正は当事者全員の合意に基づいて行う必要があり、一部の当事者が勝手に契約書を訂正することは改ざん(変造)にあたり、刑事罰が科される恐れがあります。けれど、契約書の訂正という名目で改ざんが行われ、トラブルに発展するケースも少なくありません。
そのため、契約書を訂正する際は、そのほかの当事者によって改ざんが行われていないか、しっかりとチェックする必要があります。
契約書の訂正に伴なう改ざんの例として多いのが、「捨印を悪用した無断変更」「全面変更契約の草案に、相手方の当事者が承諾していない変更内容を勝手に反映する」の2つ。捨印の悪用による改ざんを防ぐには、そもそも捨印を押さない、または相手方が十分に信頼できるか慎重に検討することが重要です。
また、全面変更契約を締結する際も、変更履歴などで訂正による変更内容を明示する、もしくは訂正前の文書と比較して不適切な変更が行われていないかを確認するようにしましょう。
変更契約書による訂正を行う際、変更契約書に収入印紙の貼付が必要になる場合があります。収入印紙の貼付が必要になるのは、重要事項を変更するために作成した変更契約書です。印紙税における課税文書にあたるため、収入印紙の貼付が必要になります。
変更契約書に貼付する収入印紙の金額は課税文書の種類(号数)によって異なり、さらに第1号文書・第2号文書については取引金額によっても収入印紙の金額が変わってきます。収入印紙の金額についても、きちんと確認しておくようにしましょう。